トラック新法について

滋賀県東近江市で社会保険労務士をしております小辰知己です。

物流業界の深刻な人手不足やドライバーの長時間労働、低賃金構造を打破するため、「改正貨物自動車運送事業法(いわゆるトラック新法)」をはじめとする関連法改正が進められています

今回の法改正において事業者が押さえておくべきポイントと、現場で必要とされる労務管理および実務上の対応策をわかりやすく解説します。

改正の背景とトラック新法の狙い

トラック運送業界では、長年の商慣行による「多重下請構造」や「厳しい運賃交渉環境」がドライバーの労働環境(長時間労働・低車給)に直結してきました。

2024年4月からの時間外労働上限規制に加え、法律の側面から事業許可や取引規制・適正運賃の確保を強化することで、業界全体の健全化と労働者の適正な処遇改善を図ることが今回のトラック新法の大きな目的です。

トラック新法 5つの重要ポイント

事業許可の5年ごとの更新制導入

従来の事業許可は「一度取得すれば半永久的」に維持できましたが、今回の改正により5年ごとの更新制が導入されます。法令違反や悪質な労務管理を行っている事業者、経営基盤が極めて不安定な事業者の淘汰・是正が進むことになります。

💡 チェックポイント

労基法・道交法・改善基準告示の遵守状況が更新審査の重要基準となります。日頃の点呼記録や労働時間の適切な把握、未払い残業の是正など、コンプライアンス態勢の構築が命取りとなります。

多重下請け制限の努力義務(2次請け以内に抑える)

実運送業者に届くまでに何重もの下請け(手配師・ブローカー的存在)が入ることで中間マージンが抜かれ、現場の運賃が叩かれる構造を改善するため、下請け取引は原則2次請けまでに抑える努力義務が課されます

💡 チェックポイント

自社が「元請け」「下請け」どのポジションに位置するか整理が必要です。自社運送能力を超えた安易な再委託を抑止し、自社ドライバーの賃金原資を確保できる取引構造への転換を促します。

標準的運賃から「適正原価運賃」の告示へ

従来の「標準的運賃」から、燃料費・人件費・車両維持費等のコスト上昇分を適切に反映した「適正原価」に基づく運賃告示へと移行・強化されます。荷主や元請けに対して適切な価格転嫁を行う根拠となります。

💡 チェックポイント

運賃改定で得た原価上昇分を、確実にドライバーの基本給適正化や手当・昇給などの「処遇改善」へ還元できる給与体系・評価制度の設計が求められます。

無許可業者(白トラ)への委託禁止と罰則強化

緑ナンバー(事業用)の許可を持たない無許可業者(いわゆる白トラ)への運送委託が厳しく禁止され、違反者・違反委託に対する行政処分や罰則が強化されます

💡 チェックポイント

傭車(協力会社)を使用する際、相手方の許可確認やコンプライアンス管理を自社のリスク管理として徹底する必要があります。

労働者の適正処遇の明確化

単に運賃を引き上げるだけでなく、それが現場のドライバーや作業員の労働環境改善・適正な賃金・手当支払いに結びついていることが強く求められます。長時間労働防止や休息時間の確保(新改善基準告示の遵守)が前提となります。

💡 チェックポイント

荷待ち時間の削減、デジタルタコグラフ等による適切な労働時間把握、拘束時間短縮に向けたシフト・運行管理の徹底が不可欠です。

運送事業者が今すぐ取り組むべき労務実務

トラック新法の施行に伴い、運送事業者は取引面だけでなく、社内の労務管理を早急に見直す必要があります。

  1. 労働時間の客観的把握と「新・改善基準告示」への完全適応
    • 1日・1ヶ月の拘束時間上限、勤務間インターバル(原則11時間以上)の確保徹底。
  2. 賃金制度・就業規則の見直し
    • 適正運賃交渉により確保した原価分をドライバーの基本給昇給や歩合給改定、手当充当へ紐づける仕組みづくり。
  3. 荷主・元請けとの協力体制および取引見直し
    • 荷待ち時間・荷役作業の契約明確化(附帯業務料の受領)と労働環境改善の交渉。

おわりに

トラック新法は、単なる「規制強化」ではなく、業界全体でドライバーの働く環境を守り、持続可能な運送体制を構築するための「構造改革」です。

事業許可の更新制が導入されることで、法令遵守(コンプライアンス)を行っていない事業者は市場からの退出を余儀なくされる可能性があると言えます。

荷主交渉による適正運賃の確保と、社内の労務管理・処遇改善は表裏一体です。

「何から手をつければよいかわからない」「自社の就業規則や勤怠管理が適正か不安」という場合は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。